第3回メディア・ユニバーサルデザインコンペティション 審査結果
2009年に開催いたしました「第3回メディア・ユニバーサルデザイン(M U D)コンペティション」におきまして、全国から173点(一般部門での応募:133点、学生部門での応募:40点)の作品の応募をいただきました。前回にも増してレベルの高い作品が数多く寄せられたのは非常に喜ばしいことでした。
最優秀賞(グランプリ)には一般部門・学生部門から各1作品の計2作品、優秀賞(準グランプリ)には一般部門から4作品、学生部門から2作品の計6作品、佳作には一般部門から9作品、学生部門から5作品の計14作品、合計で22点の入選作品が選出されました。
各々の入選作品の画像・工夫点・審査委員長の講評を掲載しておりますので、メディア・ユニバーサルデザインの考え方をご理解いただくためのツールとしてご活用いただければ幸いです。
※各作品画像をクリックすると拡大画像を表示します(別ウインドウが開きます)。
最優秀賞(一般の部)
「こおりやま ユニバーサルデザイン」パンフレット株式会社日進堂印刷所・佐久間 信幸(福島県)
工夫点
UDについて考える「一般向け」「子ども向け」パンフレットを作成。併せて、UDキャラクター「こころころ」を創った。
「一般向け」 SPコードを付け、内容を音声で再生。大きく見やすい文字を使用し、色弱者にも見やすい色づけ
「子ども向け」 イラストを多用。ドアノブの事例を導入とし、授業で使えるように構成。小学4年生以上で習う漢字にルビをふった。
UDキャラクター「こころころ」 市のキャッチフレーズ「心とこころ みんなで奏でる思いやり」を正十二面体で表現。2つのハートで「心とこころ」を、10色の顔で「十人十色」を表している。
講評
UDへの各種の配慮を啓発する冊子資料であるが、単品でなく一般向けのパンフレット、子ども向けのパンフレット、市のキャラクターを利用したUD訴求グッズの3点からなる。一般向けパンフレットは豊富な事例写真でUDへの配慮を解説するとともに、文字の大きさやデザイン、見分けやすい色調などが細かく工夫され、SPコードによる音声再生機能もつけるなど、それ自体がUD配慮の教科書のようになっている。子ども向けパンフレットはストーリー性を持たせて問いかける内容で、授業で使いやすいように工夫されている。それぞれ単体でも同種の目的の他の応募作品よりも高いレベルである上に、大人から子どもまでを対象にした複合媒体を利用した唯一の作品であり、非常に完成度が高かった。
最優秀賞(学生の部)
子ども向けワークショップチラシのデザイン岡山県立大学・髙橋 宏明(岡山県)
工夫点
岡山県総社市の商店街通りにて2009年9月に開催された、「れとろーど'09」という街おこしのイベントに出店した、子どもとその家族を対象としたワークショップ「ぞうぐらさん小学校」のチラシを制作した。「色の限定」、「アイコンの使用」、「文章」、「『表』 と『裏』の差」の4つの点で、見る人にとって分かりやすいかどうかに注意し、情報の整理と簡略化を行った。同時に硬すぎず、親しみのあるデザインを目指した。
講評
商店街が企画したイベントで行われた子ども向けワークショップの告知チラシを題材にしたデザインである。小学校の入学パンフレットの体裁をモチーフに作ってあるが、目を惹く黄色を基調にしたオモテ面と分かりやすいアイコンを並べたウラ面がよく対比されている。見分けやすいように色数を少ない数に絞っているにもかかわらず、色を効果的に配置することで非常にカラフルな印象をかもしだしている。とぼけた印象のイラストも完成度が高い。全体として子どもの理解度によく配慮し、しかも子どもだからといって変にレベルを下げることもなく、情報を有効に使える工夫が隅々まで行われている
優秀賞(一般の部)
さいわいガイドマップ株式会社武揚堂・三村 慎治(東京都)
工夫点
色の見分けがつきにくい方にも見やすいように配慮した地図を作成しました。
どうしても煩雑になりがちな文字情報を重要度に応じて分類し、色の情報だけではなく大きさ、書体、記号などをうまく使い分けて読み取りやすいものにしました。また、特に重要だと思われる市の施設や公共施設に関しては、文字の背景に白縁を入れることで背景色と同化しないよう心がけるとともに、位置を示す指示点を大きくしてより明確に区別できるようにしています。高齢者の方が見にくくならないよう、文字のサイズをできるだけ大きくしました。
町名ごとの色分けに関しても、カラーバリアフリーに適応する色設定を行い、水部や公園緑地など、他の面情報と見分けがつきにくくならないように気をつけました。公園緑地には地紋を入れることで、より視覚的に判別しやすくしています。地図全体にわたって配慮することによりメリハリが出て、色弱の方だけでなく正常色覚の方にとっても見やすい地図になっています。
講評
一見ふつうの市街地図であるが、細かい部分が実によく工夫されており、非常に見分けやすくなっている。街区ごとの配色を派手すぎず、しかし差が分かりやすい色で塗り分け、文字は重要度に応じてサイズや書体を細かく分類し、適度な白フチで背景から浮きたたせるようにしている。地図のように多くの情報を盛り込む必要がある印刷物は、少しでも配慮を怠ると非常に見づらいものになってしまう。他の製品以上に細かい配慮が要求され、今後もさまざまな工夫や提案が期待される。
優秀賞(一般の部)
防災パンフレット株式会社長英・益永 貴広(東京都)
工夫点
作品を作る際、対策編の4つを分かりやすく区別することを考えながらデザインしました。特に一番気をつけた点は、全体的なイメージが暗くならないように注意して、気軽に見ることのできるパンフレットを目指したことです。 タイトルの文字は各章のテーマカラーに近づけて色分けし、小見出しとの差別化を図り、はっきりと読みやすくしています。 本文はUDフォントを使い、文字詰めや行間はなるべく空けて文章を読みやすくするとともに、余白もできる限り多くとってあるので窮屈には感じられないと思います。
講評
防災への備えを啓発するパンフレットであるが、恐怖感をあおりがちな内容にならず、明るい基調で親しみやすさと安心感を演出している。防災では重要な注意事項が多岐にわたるため、すべてを強調しようとする結果、ごちゃごちゃ見づらい冊子になってしまう危険が大きい。この作品では章ごとにテーマカラーを設けて文字色も連動させることで、項目ごとの違いを分かりやすくし、工夫されたデザインの分かりやすいイラスト等と相まって、実用性を高めている。
優秀賞(一般の部)
M U Dごみ分別カレンダー株式会社明昌堂 新潟支社 デザイン課(新潟県)
工夫点
従来のごみ分別カレンダー同様、ごみの種類別の色分けに加え、アイコンを添えました。
「今日は何を捨てる日か」を瞬時に判別できます。
万が一同じ色に見えてしまっても、アイコンであることで判別が可能。
アイコンや文字色には、色弱者が判別しやすい配色を施しました。
淡いグレーでマスを区切り、色弱者・健常者とも皆が見やすいよう配慮しています。
カレンダー周囲のデザインは、色弱者・健常者とも見て楽しく、美しいと感じる図案を配置しました。
同系色の配色でも、モザイク模様を用いることで色の境目が生まれ、色弱者もアートを楽しめます。
濃淡差の少ない繊細な色づかいにより、最も必要な要素であるカレンダー部分を際立たせ、見やすくしています。
講評
これまでのコンペティションを通じて見やすいカレンダーの工夫はだいぶ定着してきた感があるが、さらに難易度の高い事例として、分別ゴミの回収日情報を組み合わせたカレンダーがある。いくつかの作品が応募されたが、この作品はゴミの種類を分かりやすい色調の色と、直感的に理解しやすいイラストを併用して大きく示し、遠くから見ても回収日のパターンがすぐ理解できるように工夫している。カレンダーの周囲には、対照的に細やかな色調のイラストを配して対比させているが、このイラストも濃淡や模様を上手に使って、どのような色覚の人にも美的に感じられるデザインを工夫している。
優秀賞(一般の部)
椎津川・村田川 洪水ハザードマップカラーユニバーサルデザインエキスプレス・小粥 将直(千葉県)
工夫点
前回グランプリを受賞し、それをアピールしながら実際の仕事を受注した。クライアント(市役所)にも全幅の信頼をおいていただけたので、とてもスムーズに仕事が進んだ。色については、国交省が推奨しているものを使い、それをM U Dに対応させていった。UDフォントは前回同様、積極的に使用した。
講評
前回のコンペティションでグランプリを獲得した制作者が、その成果をもとに実際に行政から受注して制作した作品である。コンペティションの優秀作がこのようにして実用に供されることは非常に喜ばしい。避難方向を矢印で示すなどの前回同様の工夫に加え、川の流れの方向を矢印で示すなど、さらに改良を加えている。また、前回は地図単体だったが、今回は解説パンフレットも作成され、その中の洪水水位のイラストなども配色やデザインなどに工夫して、非常に分かりやすいものになっている。
優秀賞(学生の部)
Happy Schedule岡山県立大学・高橋 愛(岡山県)
工夫点
本作品は幼児・小学生を対象としたスケジュールボードです。ピクトグラムと文字で日程を表示するようにしたため、健常児はもちろん、聞き取りを苦手とすると言われる発達障がいが見られる子どもにも利用しやすい形を心がけて作りました。各スケジュール用のピクトグラムの裏には動物のイラストを付け、終えた項目のピクトグラムを裏返すことで「終わり」を知らせられるとともに、子どもに達成感を与えられる仕組みにしました。
講評
食事や買い物などのスケジュールと時計の布製のイラストパネルを、内蔵の磁石でボードに貼り付けて並べることで1日の予定表を作る、幼児や発達障がいの子どもも楽しく遊べるような教材である。済んだスケジュールのイラストパネルを裏返すと、動物のイラストが出てくる。1日が済めば、全部が動物に変わるわけである。実際に動かせる時計の針や、味わいのあるデザインの各イラストパネルのピクトグラムなど、子どもの興味を惹くように作られている。布で構成された作品は現時点の印刷技術では再現することも大量制作することも難しいが、ぜひチャレンジして実現させてみたいと思わせる作品である。
優秀賞(学生の部)
M U D植物図鑑 やまぐちオリジナルユリ~プチシリーズ~山口芸術短期大学・濡田 亜矢(山口県)
工夫点
M U Dはバリアの発生を防ぐことを目的としています。バリアには様々な種類がありますが、その中で私は「知識」のバリアもあるのではないかと考えました。 今回テーマにした「やまぐちオリジナルユリ~プチシリーズ~」は、知識の無い人が見るとほとんど同じような植物に見えます。しかし、専門家は様々な違いを認識できます。知識の有無により異なる「ものの見え方」。その点に着目し、新しいM U Dの提案として知識のバリアの発生を防ぐ「植物図鑑」を制作しました。具体的には、知識を補うものとしてピクトグラムを活用するとともに、図版が分かりやすいように3DCG(三次元コンピュータグラフィックス)を使用しています。
講評
これで3回連続の優秀賞受賞となる山口芸術短期大学の作品である。一見ほとんど同じに見えるユリの花、葉、枝、根などの細かな品種ごとの違いをイラストで説明し、知識を持って見ることで初めて気づく違いというものに気づかせる。図鑑に使われている通常の写真や絵では、1枚1枚の構図が違うために植物の各部分のどこが同じでどこが違うかが往々にして分かりにくい。この作品では植物をすべて同じ形の三次元CGで構成することで、差のある部分だけがわかりやすくなっている。緻密な作業と色や形の美しさに加え、科学的な啓発内容も備えた意義深い作品である。
佳作(一般の部)
横浜市緑区 みどり車いすガイドマップ4種株式会社協進印刷・今野 良次、黒田 怜子、秋山 秀一(神奈川県)
工夫点
車いすの方・障がい者・お年寄りの方々と協力して、打ち合わせや見直しを行いながら作成しました。
Vischeckでチェックしながら、色弱者でも見やすい配色にしました。
本作品は実際に依頼を受けて作成し、横浜市緑区内で配布されています。
車いすが通れる歩道、介助者がいれば通れる歩道、狭く急傾斜があり危険な歩道、歩道のない危険な歩道、とそれぞれが
一目で区別できるように、色と模様を変えました。
特に重要な車いす用のトイレやエスカレーター、駐車場等には色付きのマークを、分かれば便利な銀行やレストランには
グレー80%のマークをそれぞれ使用しました。
文字量や情報量が多いので、イワタUD書体を使用して少しでも見やすくなるように配慮しました。
加齢により背景の白が眩しく見えると指摘を受け、背景に薄いアミを引きました。
注意事項や目立たせたい部分は、黄色のみだと白内障の方が見にくいので、少しマゼンタを混ぜることにより見やすくし
ました。
印刷は、高精細印刷でアミ点の潰れや飛びがない印刷方式で刷りました。
5原則のサステナビリティを意識してノンVOCインキを
使用するなど、環境に配慮しました。
緑区は古い町が多く、歩道が無かったり、道がガタガタで車いすの方が通るには危険な道が沢山あるということがこの地図を一目見ただけで分かるので、これを機に道路やサインなどの提案をすることができたら良いと思います。
講評
実際に使用されているガイドマップである。街の道路を、車イスが通りやすいかどうかでランク分けし、通りやすいコースやエレベーターなど車イス対応施設の配置を、分かりやすく探せるようになっている。白内障の人がみづらい黄色の色あいの工夫や、光が散乱してもまぶしくならないように薄くグレーを入れた背景など、特に高齢者の使用が多いことに配慮したデザインになっている。このような地図は、住民に分かりやすい情報を提供するだけでなく、バリアフリーで特に整備すべきキーポイントを探すツールとして、行政側にとっても効果的である。
佳作(一般の部)
UDすごろく「まちなかぐるぐるゲーム」NPO 法人ユニバーサルデザイン・結・冨樫 美保(福島県)
工夫点
UDの概念を教え込むのではなく、すごろく遊びを通して様々な立場の人を考えたものづくりの大切さを伝える。 1週目は普通にコマを進めるが、2週目は「チェンジカード」を引いて「車いすを使う」「お年寄りになる」...という立場でコマを進める。1週目は平気だった段差などのバリアを「クリアカード」やアイデアを出し合いながら解決していく。 小学校等でこのすごろくを使ったワークショップを行い、UDの大切さを子どもたちへ伝えている。
講評
昨年度のグランプリを受賞したグループが、今回はUDを啓発する学習教材を制作した。すごろくを使って、街中を模したコースを1周目はふつうに進み、2周目では同じコースをハンディキャップをもった設定で進む。1周目には何も感じなかった些細な障害物が、2周目では大きな壁となって立ちはだかり、UDの大切さを体感できるようになっている。実際の車いすの疑似体験ばかりでなく、このようなバーチャルな形での疑似体験は、授業などで簡単に多数の人に共感を呼び覚ますことができ、バリアフリー教育の新しい可能性を提起している。
佳作(一般の部)
UDを意識した食品用一括表示ラベル大阪シーリング印刷株式会社 東京企画課(大阪府)
工夫点
色覚障がいの方にも識別のしやすい配色にて構成しました。
表示文字は8ポイント以上の文字サイズを使用し、わかりやすいように配慮しました。
行が続く部分にはボーダー柄を使用して読みやすくしました。
色覚障がいの方でも強調文字の区別がしやすいように配慮しました。
講評
餃子などの食品パッケージを分かりやすく配慮するとどうなるか、に挑戦した作品。赤文字で強調したい部分を色だけでなくデザインでも差がつくように工夫し、原材料などの文字も大きく分かりやすくしている。特に効果的なのは、文字が密集して読みにくい原材料や製造者住所の欄に、1行おきに背景を塗りわけるボーダー柄を利用したことにより、行を追って文字を読むのが非常にやりやすくなった点である。ぜひこのようなデザインが食品業界に普及してほしいと思う。
佳作(一般の部)
2010.tonegawa カレンダー利根川印刷株式会社・江口 隆敏(東京都)
工夫点
ほとんどの人が視認しやすい黄色をメインカラーに採用。ダイレクトに希望の月にたどり着けるように、カレンダーの下部に月表示のタブを付けました。
講評
カレンダーは毎年多数の応募があるが、ユニバーサルデザインの手法がある程度固定化してきた感もある。このカレンダーは黒い文字に黄色いワンポイントの塗りだけというシンプルな構成で、高齢者や一般の人にはやや見づらいが、生成りの色調の用紙との組み合わせと、文字の書体と配置の絶妙な選択によって、落ち着いた、なおかつ色彩感のある雰囲気を醸し出している。この種のシンプルなカレンダーは往々にしてデザイン優先で使い勝手への配慮が不十分なことも少なくないが、このカレンダーは下部にタブをつけて12ヶ月のどの月のページも簡単に開けるように工夫し、極めて実用性の高いものになっている。
佳作(一般の部)
数字が大きい切手相互印刷工芸株式会社・田村 恵(東京都)
工夫点
従来の切手はもともと切手自体が小さいことに加え、数字の部分がイラストの邪魔にならないように端に控えめに表示されているものが多く、ぱっと見たときに数字の認識がしにくい。小さな文字を読むのが困難な方や、イラストに埋もれて数字が読みにくい方にも使いやすいように、数字の部分をメインにした切手を制作した。
講評
切手は芸術アイテムのひとつとしてコレクションの対象になるほど認知度が高く、郵便局も腕利きのデザイナーを擁して毎年多数の作品を送り出している。しかしその多くは、金額の数字を隅に小さく印字し、無関係な絵柄を大きく書いたもので、視力が少しでも低いと金額が非常に分かりづらく、実用性という点では失格に近い。一方金額を大きく記した切手は、デザイン性に欠けたものが多い。この作品は金額を中央に大きく印字し、周囲にイラストを配置するという逆転の発想で、「実用的でしかも芸術性もある切手」というものへの問題提起になっている。
佳作(一般の部)
UD電子紙芝居「かいだん王国のエレベーター」株式会社進和クリエイティブセンター(福島県)
工夫点
パソコンで再生できる紙芝居タイプのUD教材です。
シナリオに沿って読み進めていくことで、ユニバーサルデザインの7原則を楽しく覚えることができます。併せて、ものづくりを進めていく上で大切な「心のユニバーサル」を伝えます。
学校の授業、ワークショップなどに幅広く活用できます。
データが軽いため、インターネットを通じての配布も可能です。
講評
PDFを使ったファイルだが、基本的には従来の紙芝居を電子ファイルに置きかえただけで、アニメーションや文字表示をつけず、教室などで昔ながらの方法で先生が生徒に語りかける形で用いる素材になっている。エレベーターを初めて発明した人が試行錯誤を重ねて操作ボタンなどの使い勝手を高めてゆくさまを追うことで、身近なもののユニバーサルデザインがどのように発展してきたかを体感できるようになっている。電子媒体を利用した教材では、派手なアニメーション効果を駆使するあまり、かえってどこに注目すべきかの強調づけが散漫になって、利用者の理解度向上につながらないことがある。素朴な紙芝居形式も、電子媒体の新たな活用法のひとつかもしれない。
佳作(一般の部)
北のUD事例集株式会社正文舎 創造促進室・成田 貞行(北海道)
工夫点
健常者・色弱者ともに同じように見える、色変化の少ない色づかいにしました。
基本書体にイワタUDフォントを使用し、文字の大きさをできるだけ大きくしました。
片手でも持ちやすいように、サイズをA5判にしました。
NPO法人メディア・ユニバーサル・デザイン協会によるM U D認証を受けています。
講評
北海道におけるユニバーサルデザインの事例を紹介するパンフレットで、さまざまな分野でUDがどのように実現できるかを知るよい参考資料になっている。見出しや写真を配した左ページと、説明文を配した右ページで背景の色を対照的にし、冊子全体をパラパラめくったときの統一感と分かりやすさを出している。
佳作(一般の部)
おりがみのメディア・ユニバーサルデザイン化杉山メディアサポート株式会社・鈴木 瀬奈(静岡県)
工夫点
おりがみは保育園や幼稚園など、幼い時期に誰もが触れる物です。また、最近では認知症の予防として、高齢者の方も触れる機会が多くなってきています。そこで、色覚障がいの子どもや白内障・緑内障のお年寄りの方にもおりがみをより楽しんでもらうために、おりがみのメディア・ユニバーサルデザイン化をしました。 表面は従来のおりがみより色を若干変えて、色覚障がいの方も色の差がわかるようにしました。色名を日本語・英語・ポルトガル語で入れてわかりやすくしました。一般的にその色をしている物のイラストを入れ、視覚的に楽しめるようにし、文字が読めない子どもにもわかるようにしました。裏面にはおりがみでよく折られる場所に点線を入れ、折る位置がわかりやすいようにしました。
講評
折り紙は形が同じで色だけで区別されているものの代表格である。色の違いが分かりにくい人のために模様などの形で区別するのが有効に思えるが、実際にどのような模様を施すかを考えるのは難しい。この折り紙は色調を工夫して色の違いを分かりやすくするとともに、その色に合った動物のイラストを柄に用いて、文字が読めなくても色との関連性が得られるようにしている。色鉛筆などの文具と違い、デザインの素材として用いられる色紙では見た目を損なわないように色名を表記するのが難しい。この作品は日本語、英語、さらにポルトガル語をあしらって色名を意匠としてデザインに取り込むことで、見た目の美しさと色名がすぐ分かる実用性をともに実現している。
佳作(一般の部)
業界イメージアップポスター山口県印刷工業組合(山口県)
工夫点
このポスターは、印刷物はイメージを創造することで無限の可能性があることをデザインしています。 文字の数は必要最小限にし、アクセシビリティ(接近容易性)とリテラシー(読めて理解できる)の効果を狙っていて、2次元コードの利用で使いやすさも考えました。
講評
大判ポスターでは、色を上手に使いつつ、色覚の違いによって受ける印象が大きく異ならないこと、視力が低い人にも十分に読めるように配慮されていることなどが重要である。このポスターはグラデーションで色を徐々に変化させると同時に、鳥やハートの形も徐々に変化させ、色と形で連続した変化の楽しみを創り出している。また文字の量を最小限に抑え、なおかつ必要な情報が十分読み取れるように配慮されている。
佳作(学生の部)
ETC料金割引表の改善岡山県立大学・酒井 夏実(岡山県)
工夫点
現在使われているETC料金割引表は、表の並びが「通勤割引」の次に急に「早朝夜間割引」がきていたりして、時間的な秩序が見られない。色分けもなされてはいるが、色覚障がいの方にはあまり意味のないカラーリングである。また、説明文の中で安さを強調しすぎて、条件などが分かりづらい。 以上のことを改善し、さらに時間軸の棒グラフを追加することで、より見やすくなるようにした。
講評
高速道路のETCは時間帯や曜日によって割引制度が複雑に入り組んでいる。実際に使用されている割引制度の説明パンフレットの表は、割引時間帯の説明が時間順になっていなかったり、色づかいや割引条件の説明が分かりづらかったりという欠点がある。この作品は、説明を時間順に整理し、しかもそれぞれの割引が有効な時間帯をグラフで示すなどの細やかな工夫によって、非常に分かりやすい説明になっている。学生にもきちんとしたものが作れるのに、高速道路会社から作業を請け負ったプロの制作者がどうして同じレベルのものを最初から作れなかったのか、反省させられる。
佳作(学生の部)
M U D色鉛筆岡山県立大学・井上 斐香(岡山県)
工夫点
従来の色鉛筆セットは、色弱や白内障の方々にとって混同しやすい色の組み合わせがなされている。これでは色鮮やかな制作を楽しむことができない。そこで、各色同士の区別がしやすく、一般の方にとっても色弱の方々にとってもできる限り色名の色に近く感じられるように工夫して、色を調整した。
色名に関しては、年配の白内障の方など、幅広い世代に親しみやすいように日本語名で統一している。また、「肌色」のように特定の人種の肌の色を示す表現は避けた。
字は全体に大きめのものを使用している。色鉛筆にはそれぞれ色名を彫り字で表記し、濃い色のものは白抜きの字、淡い色は黒字として見えやすいように工夫している。また、色鉛筆を使い進めてもギリギリまで色名が削られることのないよう、下部に文字を寄せている。
容器のフタ内側には、色名とともにカラーチップを表示した。
これにより、文盲の方でも一見して分かりやすく、また、色鉛筆本体の色名が削られてもこれと見比べれば何の色か分かるようにしている。
注意事項に関しては、ヴィジュアルで示すことにより子どもや文盲の方でも理解しやすくした。
容器フタのイラストは色鉛筆を使った手描きとし、購買時に色の具合を確認できるようにしている。容器裏には中の色が正確に把握できるように、文字でも12色の色名を記している。
講評
色鉛筆は12色程度のものでも、色弱の人などには見分けづらい組み合わせの色調が混じっていることが少なくない。この作品は配色を工夫してそれぞれの色の差が分かりやすいような色調を選んでいる。色弱の人は色の違いが分かっても色名を間違えることがあり、ペン軸に書いてある色名を頼りに色鉛筆を使うことが多い。国産の色鉛筆はほとんどすべて色名を表示するようになっているが、この作品は軸が短くなっても色名が見やすいように表示の位置を工夫し、しかも箱のフタの裏にも色調と色名を明記するなど、何重にも見やすさへの配慮を重ねている。またパッケージにはこの色鉛筆で引いた線をイラスト化して表示し、購入前に色調が分かるようにしている。色名がどこにも書いておらずケースも使いにくい外国の有名メーカーの色鉛筆にグッドデザイン賞が授与されたりしているが、この作品はそれよりもはるかに完成度が高い。
佳作(学生の部)
お手軽お料理早見表山口芸術短期大学・渡川 由加(山口県)
工夫点
隣り合った調味料が見づらくならないように、配色に気をつけました。
計量スプーンや計量カップのマークを使い、調味料の分量がひと目で分かるように工夫しました。
講評
砂糖、塩、醤油、味醂などの配合は料理ごとにベストな量が異なるが、暗記するのはなかなか難しい。この作品は冷蔵庫の扉などに貼っていつでも見られるようにした早見表で、スプーンやカップのサイズや杯数を色と形で分かりやすく示している。単に便利であるだけでなく、バラエティーに富んだ料理に用いる調味料の違いが図形パターンとして楽しく比較でき、これまで見過ごしていた料理ごとの特徴の違いに気づかされる。
佳作(学生の部)
電話でつながるこころ山口芸術短期大学・内田 春香(山口県)
工夫点
9つの項目をキャラクターで分け、親しみやすいようにしました。
それぞれの項目を色で分け、より分かりやすいようにしました。
表紙を開けばすべての項目をひと目で見ることができ、必要な情報にすぐにたどり着けるように、独自に折り方を考えました。
講評
心の病などさまざまな問題を相談する窓口の情報を分かりやすく伝えるパンフレットで、行政が配付するものを模している。項目ごとにテーマカラーを作り、キャラクターイラストで親近感を出すなど、伝達内容が深刻であるにもかかわらず暖かい雰囲気を出している。さらに横長の紙をページごとに長さを変えて折りたたむことによって、全てのページの端の部分が一覧でき、探したい項目へすぐにたどり着けるように工夫されている。読みやすさ、親しみやすさ、開きやすさ、美しさなどさまざまな面で、現在行政から配付されている同種のパンフレットのほとんどよりも高い完成度にあり、学生の作品とはとても思えない。
佳作(学生の部)
人の間福島学院大学 短期大学部 情報ビジネス科・佐藤 政樹(福島県)
工夫点
人の形を白線で書くことにより、はっきりと認識できるようにしました。
講評
人の心の孤独さとコミュニケーションの大切さを抽象的に訴える作品で、濃淡で人の形を切り紙細工のようなイラストで表現している。さまざまな姿勢で座っている人間のポーズの違いを、白線とグラデーションを使って立体的に表現しており、濃淡でこれだけの表現が出来るのかと感心させられる。
審査員特別賞
山口芸術短期大学
山口芸術短期大学は第1回コンペティションではカレンダーのデザインで、最優秀賞が該当作品無しという中での優秀賞という最高位。第2回も花札のデザインで、最優秀賞の候補に最後まで残る極めて高い評価を得た。今回も1点が優秀賞、他に2点が佳作と、毎年素晴らしい作品を輩出している。 どの作品も規模の大きさ、美しさ、隅々まで行き渡った配慮の丁寧さ、プレゼンテーション用の説明資料の丁寧さと的確さなど、一般の部の応募作品群と比較しても最高レベルの、学生とは思えない完成度である。しかも毎回全く異なるテーマに挑戦し、それぞれで素晴らしい成果を残している。印刷のユニバーサルデザインは極めて重要な分野であるにもかかわらず、残念ながらデザイン系の主要な大学の動きは鈍く、きちんとした形でカリキュラムに取り入れている例はほとんどない。その中で山口芸術短期大学の取り組みは群を抜いている。毎年違う学生が、違う内容でそれぞれ独創的な作品を完成させていることは、指導の的確さを物語っている。そこで今回、審査員の総意で、当初の規定になかった特別賞を設け、その努力を高く顕彰することにした。
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